炊い処ぽんたんのブログ

大阪・肥後橋にある「酒と料理と土鍋ごはん」炊い処ぽんたんの近況と食にまつわる雑記です

空腹感2.0

【近況】

誰かのお腹が減ってもらわないと、自分たちの仕事はなかなか商売になりません。食事は味付けや空間、演出ももちろんですが、何よりお腹が空いている、喉が渇いているからこそ、よりおいしく感じるはずです。

ごくたまに、グループでランチを食べに来て1人だけ半分も箸をつけずに帰っていかれる人を見かけます。おそらく、上司か得意先に誘われて断れず、すでに昼食を済ませているのに付き合いで出て来たのではないかと勝手に想像しています。自分も経験がありますがそれはそれでご本人も辛いところでしょう。

 

最近はリモートワークで外出が減っているようですし、そもそも普段の生活も通販やスマホの発達でいろいろ便利になってきて、心地よい疲労感が味わいにくくなったように思います。

自分自身、欲しいものを探しに書店やCDショップや服屋、家電量販店をハシゴするようなことも今はほとんどありません。

頭を使うことも、日常生活程度のことならスマホで調べれば済みますし、タスクや予定はリマインドされてくるのが当たり前になったので、頭の片隅に置くことさえありません。

 

こういう調子で、普段から頭や体に心地よい疲労を感じることが減ってしまったので、自分としては心地よくお腹が空くこともおなじように減ったと感じます(加齢のせいかもしれませんが)。自分は食べることが好きなので、毎回の食事はできるだけ腹ぺこで臨みたい。

なので最近はわざわざ「ちょっと疲れにいく」気持ちで、休みの日に足を外に向けることがあります。

 

これからの時代、店に足を運んでもらうのも、居心地の良さや経済的なお得感だけでなく、そういった「ちょっと面倒な楽しさ」を刺激する必要があるのかもと感じるこの頃です。

 

【記憶に残ったお店の味 その8】

フランス料理に対するイメージがぐっと身近になったのは、十年くらい前に社員旅行でニューカレドニアに行ったときがきっかけでした。

それまでは、ホテルのレストランで結婚式のときにご馳走になるような、もしくは重役クラスの人々が会食で使うといった、高級で非日常の食べ物だという感じで、とても普段着で食べに行けるジャンルの食事のイメージはありませんでした。イタリア料理はすでに日本でカプリチョーザという食堂イメージのレストランがあったので、もっと身近な存在だったと思います。

 

ニューカレドニアはフランス領ということで、街中でふらっと入る店、車で立ち寄った田舎の道路沿いにある店、ガイドさんがお勧めしてくれた店、基本は土台がフランス料理です。それらが、今までフランス料理に抱いていた「高そうなお皿にちょこっと」「繊細な盛り付け」「がっつり食べられない」という思い込みを吹き飛ばす、力強い料理の数々だったので衝撃的でした。

山盛りのフレンチフライとインゲン豆の上にどかっと盛られたステーキ、シェアしてもなお1人分以上ありそうなクレームブリュレ、分厚く切り分けられた鴨のロースト、無骨な大きさのフォンダンショコラ、全体的にどっしりした味付けは圧倒される食べ応えでした。そして、そんなに広くない店でお客がガヤガヤとしゃべりながら過ごす雰囲気もまた、イメージを覆してくれた一面でした。

 

そんな気取りのない気楽な食事で、初めてフランス料理を魅力的に感じました。もちろん日本にもそういう普段使いのフランス料理店は相当あるのですが、その頃はまだそんな店の存在は知らなかったので新鮮でした。先に本場(といってもニューカレドニアですが)で触れることができたのは良かったと思います。

 

その後日本で何度か足を運んだフランス料理店が少しだけあって、中でも渋谷にあるコンコンブルという店は、その当時の楽しかった時間を思い出すことができる好きなお店でした。

雰囲気も料理も気取った感じがなく、お腹いっぱいまで堪能できます。ジャンルは違えど、店で過ごす時間とお腹いっぱいまでお酒と食事が堪能できる空気感は、つねに意識して見習いたいお店の1つです。