はじまりはいつも水
【近況】
米を炊くこと一つとっても、とにかく大量の水を必要とする仕事です。つくづく、清潔でおいしい水が使える環境でよかったと思います。
ある食通が食べたこれまでで最高においしかったラーメンは、スープに使うために人里離れた山奥で調達する湧き水に秘密があったという話を聞いたことがあります。
酒はよく料理と合わせる楽しみがあるといいますが、水が相性を左右するという視点から、なるべく近い地域で作られた食材と酒を合わせるのがやはり最もおいしく味わえるといいます。
ワインもやはり産地国の食材、調理法を用いた料理と合わせるのがより自然においしく感じられるように思います。
同じ地域の水で育った色々な食材に、その地域の水で仕込んだ酒が合うとは何となく納得です。
醤油や味噌などもそうやってなるべく近い場所の生産者が作ったもので揃えて、出汁も当然その地域の水で引く。こういう体験は、現地でないと味わえないものが味わえるでしょう。西洋料理を学ぶうえで留学する理由には、こういう体験を積むことも多分に含まれていると思います。
日本全国・世界各国から話題の美味を集めるような贅沢さとは、根本的に違う贅沢さが味わえるような気がします。
【おすすめレシピ本】
全くレシピ本ではありませんが、読んでいるとお酒を味わって飲める気持ちがしてきます。
寿屋のちのサントリー二代目社長の佐治敬三と、同社広告部門として活躍してのちに芥川賞作家となる開高健の出会いとその後が描かれているノンフィクションです。
まだ全部読んでいませんが、太平洋戦争を終えた日本を舞台にそれぞれの立場で環境に翻弄されながら、きれいごとだけでなくたくましく爪痕を残していく様子が、歯切れ良く生き生きと描かれていて引き込まれる文章です。
サントリーといえば前職でも独立した今の店でも、何人か担当者さんにお付き合いがありました。営業の皆さんの姿勢から感じる社風だったり、定番商品のビールやウイスキーのラインナップの源流、旬のタレントがCMに続々起用される広告の打ち出し方など、今に至る全てがこの歴史あってのものだと思うと、色々なものがつながっていくようで面白く読んでいます。
創業者二代目として事業へ大胆に取り組んでいく経営者と、自己の内面と戦後日本のあり方にひたすら向き合う作家とは、一見、価値観が交差するとは思えません。しかしこの時代にあってこそ生まれたであろう友情の形に、不思議なうらやましさも感じる一冊です。