炊い処ぽんたんのブログ

大阪・肥後橋にある「酒と料理と土鍋ごはん」炊い処ぽんたんの近況と食にまつわる雑記です

節度あるノスタルジー

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【近況】

ほぼ毎朝仕入れに立ち寄る鶴橋駅前には、早朝から買い物ができる肉、野菜、鮮魚その他専門店が集まった市場があります。

 

一帯は戦後の闇市が始まりといわれ、商店街の中は看板から屋根から照明、電線、アーケードなど長年継ぎ足しで増築していったと見られる複雑な構造で、自分が小さい頃祖母によく連れられてきた30うん年前から、その印象は今もほとんど変わりません。混沌とした細い道の奥はどこまで続いているんだろうと考えるのは大人になった今でも楽しくあります。

 

最近は韓国若者カルチャーを反映した飲食店や物販店が増え、それらの派手な電飾と色使いがあいまってさらにエネルギッシュな雰囲気に満ちています。

 

そんな一角に古くからの鮮魚市場があります。朝から海の匂いが立ちこめる、コンクリートと裸電球が剥き出しのその一角は、鮮魚だけでなく塩干物、昆布・鰹節、促成野菜(刺身のつまなど和食の添え物)、珍味、消耗品パッケージ類など食にまつわるいろんなものが手に入る場所でした。

しかし、耐震基準を理由とした取り壊しを前に2年前、入居する業者に立退きと引越しが求められていました。

 

そもそも高齢の店主が営む店が多かったためか、それを受けて7割くらいの店が閉店の貼り紙を出していたように思います。残り3割の半分はすぐ近くの閉場した別の市場があったエリアを個々に改築して移転し、もう半分の店舗は立ち退きに反対という姿勢で引き続き同じ場所で営業を続けました。それなりににぎやかだった市場の半分はほぼ真っ暗となり、残った店舗の灯りだけとなって2年が経ちました。

 

先日電車から、市場の屋上駐車場が取り壊されているのが見えました。時折立ち寄る魚屋さんにいよいよ立ち退きなのかとたずねてみると、市場の入る建物の半分を先に取り壊して新たに小さな商店エリアを作り、今残る店舗がみなそこに移転するということでした。

 

今の建物は耐震のことも気がかりだったので、いったん丸く収まることに部外者ながら安心したのですが、同時に、今まで見てきた市場の景色が二度と見られなくなる寂しさが一際強まってくるのでした。

 

しかしそう感じてしまうのは、自分が取り残された側の目線になってしまっているからであって、懐かしさを理由に変わらないことを望むのはおかしいと思い直しました。これを機に一帯の若返りがさらに進むことを願う今日この頃です。