炊い処ぽんたんのブログ

大阪・肥後橋にある「酒と料理と土鍋ごはん」炊い処ぽんたんの近況と食にまつわる雑記です

座が会を表す

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【近況】

旬のものだったり、あまりポピュラーではないけど良い取り合わせだったり、目立たないけどお客さんにぜひ食べてもらいたいと思う食材やレシピが見つかることは多々あります。しかし、地味だったり味の想像がつかないという理由で注文を敬遠されることも同じくらいあります。

 

目立たないメニューをラインナップに入れて注文されず、あとでがっかりするのも嫌なので、どうしても売れやすいメニューで固めがちなのですが、そうなるとやっているこっちが何だか面白くない品揃えに感じてしまいます。そこは、売り方のアイデアが自分にまだ足りないところでもあります。

 

目立たないメニューが注文してもらえるかどうかは、お客さん同士の関係性しだいというところもあります。

ご夫婦、家族、親しい友人同士のようなグループが多い日は、食べたいものを遠慮なく注文し合えることが多いようで、幅広く楽しんで注文してもらえるのでこちらも楽しく仕事ができます。

 

一方で、お互い遠慮をまだ必要としていそうなグループが多い日は、本当に判で押したようにおなじポピュラーなメニューに注文が集中します。

注文を聞きに行くと、同席する皆が納得しそうな無難なものはどれだという空気が漂っています。そういう席の主役は飲み食いすることではないので、それはそれでつつがなく座が締まるよう尽くします。

 

目立たなくともこれはぜひ食べてもらいたい、という考えがそもそも独りよがりではあるのですが、それでもそういうメニューを食べて知ってもらって喜んでもらえるとがことの外に嬉しいのが自分の仕事です。

抜けも後味

 

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【近況】

豊中の店が稼働して1年ということは、自分自身がカウンターのある店に立っての接客を始めてからも1年ということになります。

就職して以来、アルバイトならそのさらに前から、飲食店の仕事でやってきましたが、昨年まで実はカウンターで仕事をしたことがありません。40歳を過ぎて初めての経験でした。

 

初めてといえどこれまでの延長ですからそれなりにはやりますが、やはり奥まったキッチンでの仕事しかして来なかった人間としてはカウンター席はまだまだ緊張と反省の連続です。特に接客については先輩のような存在もいなかったので、まさに手探りです。

 

そんな中で勉強させてもらっている人が2人、1人めは店舗ご近所のワインバーのオーナー、2人めはオープンまもなくから通っていただいている美容師のお客さんです。

 

そのワインバーへは、この1年でお邪魔した回数は5回にも満たないほどではありますが、ソムリエとして気取りなく振る舞いお酒の特徴をもれなく提供しつつ、客1人1人にあった話のきっかけで個性の違う会話をひきだす様子は実に惚れ惚れします。

気分良く自分の話をしているときは、この人話が合うなーなどと感じて気づかないもので、のちのちそのオーナーと他のお客との会話を横で見ていると、酒の魅力を伝える手数が多くあるのとおなじように、自然と相手に合わせられる話題の引き出しを多く持っておられることがわかります。

 

美容室のオーナーをされている後者のお客さんは、どんな切り口からでも力強く話を広げていく姿が印象的で、こちらもいつも勉強になっています。

接客側のこちらが合わせきれない話題だったとしても、その方に身を任せていればひとしきり話題が山を迎えて、最後に締められていくという体験を何度もしています。自分の場合は、一言二言で話の広がりが見えづらかったり、スポーツなどの詳しくない話題だとどうしても逃げてしまいます。

 

誰かが長い時間をかけて身につけたものに触れることほど視野が広がることはありません。こちらが一朝一夕に身につけられるものではありませんが、気長に学んでいきたいと思います。

魂は一対になって

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【近況】

ある期間だれかに付いて何かを教わるということを、改めて考えていきたいと最近はよく感じます。

 

きちんとした数を調べたわけではありませんが、世の中でたとえば直近一年間で他人に付いて何かを教わる・学ぶという経験をした大人の数などは年々減り続けていて、なんとなく今後はさらに減っていくのではないかと感じています。

 

常にアップデートされた最新の情報や知識を、自分の都合良いタイミングで、いるものといらないものを選択して、1人で学ぶことができる、という仕組みが今はどんどん進んできているので、「学び」を商売にする業界の広報においておそらくいま以上に、特定の人に付いて何かを教わるというのは「たいへんに無駄が多い」と喧伝されるようになると自分は見込んでいます。

 

あえて人に付いて何かを教わるということの意義とは何なのか。

自分が、料理を作るということについて最も教わる機会が多かったのは20年少し前、学生時代の居酒屋のアルバイトに遡ります。

 

そこでは社員や同じアルバイトの先輩達が、特に決められたマニュアルを使うこともなく、それぞれのペースで、その日出勤している新人に、口頭で仕事を教えていました。

 

完成する料理の見た目は同じでも、細かな部分は教わる先輩によってずいぶん言っていることが違っていました。モチベーションをかけられるといったことは全くなく基本的には誰もがすこしめんどくさそうな感じで教える感じの職場でした。それでも、教えた仕事の最低ラインをその新人がクリアしたかどうかは、その先輩だけでなくホールスタッフも含めた店全体がわりと抜け目なくチェックしていたと思います。

 

そんな日々の中でそれぞれに、何となく自分はこの先輩にこれを教わりたいな、またはこの新人にこれを教えたいな、という大袈裟に言えば師匠弟子のような関係が個々に生まれ、何となく仕事が受け継がれて店が回っていたように思います。

 

今の時代ならとことん効率が悪いと指摘されそうなのですが、この空気感が自分とは相性がよかったようで、多くのことを自分なりに進んで調べたり検証したりして身につけた時期でした。

この時期に先輩から得たものは単に情報や知識というより、それらを身につける流れや姿勢であって、考え方やセンスの一部としてその後も自分の仕事を支えてくれていると感じます。

 

効率よく大量の知識を身につけるなら、自分1人で学ぶほうが向いていそうです。しかし、その後何年も仕事を続けるための強い信念や価値観を養うには、効率が悪くても師匠や先輩に付いていくという時間が必要だと思います。そもそも効率を考えるという次元にとどまっていては、いつまで経っても身につかないものがあるのかもしれません。

年齢的に、いつの間にか人から何か教わることはもうないと勝手に思い込んでいましたが、そんなことはなさそうです。これからも人に教わる機会を求めて、身の回りに目を向けることを続けたいと思います。

引き受ける一枚の扉

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【近況】

豊中「Pont 3-8-4」が5月3日で稼働開始から1年となります。

間借りスペースが1周年というのも変な感じですが、せっかくなので5/3・5/4は「炊い処ぽんたん」のメニューで特別に2日間営業をする予定です。

 

シェアキッチンにもレンタルスペースにも全く知見がない状態で、2021年末〜半年ほどかけて準備をしていました。間借りだけで運営する店を作るのはありかも、というただふわっとした手がかりだけを頼りに、元々ゆかりの強い地域でもなく、実際に間借りオーナーが入る目処も何もない状態で、いったいどういう気持ちで去年の5/3を迎えたのか今思うとたった1年前のことでもよくわかりません。

「やらないと後悔する」という直感が大きな支えだったかもしれません。

 

直感を信じて始めたにせよそうでないにせよ、始めた以上は続ける方法をものにしなければいけません。1年を前にして、運営という点では当初思っていたより良い部分もあれば、ぜんぜん駄目な部分も両方あります。

きちんと続けられる体制にしていくには、この業態が自分にとって&間借りオーナーにとってどうあるべきか、を誰よりも深く考え続ける必要があることを日々痛感しています。

 

肥後橋「炊い処ぽんたん」にとっても、新しいことを始めたことはいろんな変化を生みました。自分たちの売りが何かをあらためて知り、これまで見過ごしていた無駄を整理するよいきっかけが何度もありました。

 

それぞれの店舗にふさわしい今後のあり方を、まだまだ見極めていきたいと思います。

案ずるより食うが易し


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【近況】

店を出して以来はなかなか店を離れて過ごすということが難しいため、勉強がてらによその店を見に行くということがあんまりなくなってしまいました。

いっぽうで、「勉強を目的に」という食事に時間を費やすのは控えていこうという思いが最近は強まっています。

 

かつては、自分の店やそのメニューを同業と比較して改善するということを念頭に置いて、行った先では気になったことをメモしたり写真を撮ったりしていたものでした。

しかし徐々に、そういった機会で芽生える自分の良くない心構えが気になるようになってきました。それは、自分の仕事で手を抜けそうなところをつい探してしまうということです。

 

ターゲットが近そうな同業の店を見にいくことは、メニュー、内装、見せ方、段取り、接客、価格帯など多くの情報を得られ、刺激となってやる気が出てくるものではあるのですが、一方で、自分が日ごろ苦労していること、不安に思っていることの答えを見つけたいと思ってもいます。

その結果、「ここはもっとがんばろう」と思えるだけならいいのですが、「ここはもう少し手を抜いてもいいかな」という思いが浮かぶことも多いことに気づいたのでした。

 

しっかりと芯の強い信念をもっていればコントールできることなのかもしれませんが、未だその境地にはありません。

それならば、もう食事の時間は楽しむことだけを考えて過ごせるような場所に行きたいし、心から楽しく過ごせる経験が増えることのほうが、ちまちまと小さいことを気にして過ごすよりよい店を作る肥やしになるように最近は感じています。

芯から湧き出た緑

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【近況】

山菜やタケノコなど、春に食べて季節を実感するものはいろいろありますが、中でもエンドウ(関西で多くはウスイエンドウ)は個人的に抜きん出てありがたみを感じます。

 

いわゆるグリーンピースと同じものを指しますが、グリーンピースといえば昔オムライスや焼売やさまざまトッピングにたくさん使われていた覚えがあります。自分にとってその印象は、臭くてザラザラして苦く変な味というものでしたが、そういったものの多くは缶詰の水煮や冷凍のもので、サヤから剥きたてのエンドウは風味も食感もまるで別物です。

 

2,3分ほど塩茹でしてすぐのものは、プチプチとした食感とほっくりした舌触りがなんとも言えません。特有の匂いが気になって食べられない人も多いようですが、新しい豆ほどその匂いも繊細で穏やかです。この匂いと鮮やかな緑色からは、春らしい活力の漲りを感じ取ることができます。

 

サヤから出した豆は、さらにもう一枚薄皮につつまれています。

かなり手間ですが、これをさらに一つずつ剥き取ったものを薄味のだしに浸したり、裏漉しして和えものやコロッケにすると、そのなめらかな舌触りとほのかにクセのある風味が直に味わえます。

 

夏を迎えて野菜が入れ替わるのは案外早いものですから、今のうちに食べられるものは食べておきたい今日この頃です。

「そこそこ」そろそろ、底打ち感

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【近況】

移動中に食事を済ますのにマクドナルドは高い頻度で利用している店の一つです。

ここ数年、朝マックは月3〜4回、昼メニューは月1〜2回ほど、減ることも増えることもなく通っていると思います。

 

中でも基本ラインナップのハンバーガー(チーズバーガーやビッグマック、マフィンなど)とおなじみのフライドポテトは、塩加減そのものが味付けの基本なので、ふだん自分が店で多く味見している醤油や味噌といった日本食の味がしないので気持ちがリフレッシュします。

 

醤油や味噌、だしに頼らないで、塩だけで味付けを決めるのは難しいものです。醤油や味噌、酒、みりんといった発酵食品、鰹や昆布その他のだしは、旨みや甘み・香りがあるので、素材に塩気だけでなく風味を与えてくれます。多少加減がぶれてもおいしさが変わりにくく、何なら、直接つけて食べることも可能です。

 

欧米の食事の多くは塩で最後の味付けを決めます。多少の加減で味がぶれやすい部分です。風味や香りは、胡椒やハーブなどの香辛料、玉ねぎやにんにく・セロリなどの香味野菜、ワインなどのお酒、トマトやオイルなどを活用するイメージです。

いずれもそれ単体が醤油や味噌ほど強い旨みを持っているわけではないので、組み合わせや量の加減が必要です。旨みという点ではブイヨンやフォンといっただしが活躍します。アンチョビやチーズなど発酵食品ももちろんありますが、醤油と味噌ほど多用されるイメージはありません。

 

時折そうやって醤油と味噌をとおざけた食事をして気を新たにしているのですが、海外などで食べられない日がつづくとやはり恋しくなるものだと思います。和風、欧米風、エスニック、どの食文化もそこそこに国内で楽しめるのは日本のいいところでしょう。

 

しかし先日、自国の食文化に愛着のない人ほど、世界中で活躍できるという話を聞きました。日本の食事に慣れすぎた自分などは、長い海外生活で日本食が恋しくなってきたら、活躍といえるほど仕事に集中できない自信があります。

 

ただ、原料高騰などで日本国内はこれから、多様な食事をそこそこに食べられる時代ではなくなるかもしれません。これを機に、何でもそこそこ食べられる文化を過去のものにして粗食へ回帰していくのがいいのではと思います。そうすることで、新しい世代から世界中で活躍できる日本人が意外と増えるのではないでしょうか。