手の内もいずれ口の内
【近況】
かつては同業者の人がお客さんで来ると、店内から料理から隅々まで見られている気がして手ごわいなと感じていましたが、今は「ただ食べるのが好きな人」のほうがよっぽど手ごわいと感じます。
当店ではあまり産地や希少性などの副情報を店内のメニュー書きなどに反映させることがありません。
なかなかそういうことに手が回らないというのがその理由ですが、あまり変にありがたみや先入観をもたずに気軽に注文して欲しいという気持ちもあるからです。
あとは、あまり副情報が多いと、自分自身が感化されやすく、先入観を持ってしまいがちなので、それを警戒しているというのもあります。
しかし多少はそういった情報があるほうが実際においしく感じるのは必ずそうですし、口頭で何かしら説明できるものはするなど努力は必要だと日々感じています。
でもお客さんの中には時々、先入観やそういった情報を意識せず、率直に自分の感覚に沿って味わった感想を教えてくれる方がいます。
こちらがおすすめで出したメニューでも、味の足りない部分を指摘してくれますし、逆にこちらが気づいていない食材の魅力を見つけて伝えてくれることもあり、手ごわくもあり大変ありがたい存在です。
食に詳しいグルメや料理好きというタイプではなく、「ただ食べることが好きな人」という方が多い印象です。
自分も含めた業界の人間の視点ではなく、多くの一般的なお客さんの視点がありがたいので、ほかにどんな食事をしているのか知りたいのですが、そういう人に限って写真を撮ってSNSに上げたりといったことには興味がなかったりします。
人に食べる楽しみを提供する人間としては、まだ体験していない食を探求したい気持ちもありますが、難しく考えずにおいしく味わえる食が何なのかを探る気持ちも持ち合わせたいと思う今日この頃です。