炊い処ぽんたんのブログ

大阪・肥後橋にある「酒と料理と土鍋ごはん」炊い処ぽんたんの近況と食にまつわる雑記です

酔ってもないのに迷い道

【近況】

なんとか売上を補強できる取り組みはないかといろんなアイデアを同時並行で毎日かんがえる1週間でした。こういう今までに滅多にない状況ですので、チマチマしたアイデアより何か思い切ったアイデアはないかというところから始まって、実現可能な案に落としていくほうが良い取り組みにできそうな気がします。そのほうが考えている間のテンションも保てそうなものです。

 

各国で都市封鎖や外出禁止の流れがある中、日本のやり方はゆるい、危機感がないといった批判を目にすることも多くあります。思うこととしてはただなんとなくですが、少しずつ気づかない程度に空気の色が変わっていったほうが、混乱すくなく皆足並みをそろえて行動に移すように思いますし、なるべく多くを損なわず残すという点でこの国に合った変化の仕方のようにも思います。もしこの後に店舗系事業は営業停止、外出も禁止という流れが待っていても、まあそりゃそうかという気分に自分はなってきています。

 

個人的には、自分も感染を増やす側になりたいわけではありませんから、1日あたりの家賃と水光熱費年金保険料税関係が延納なり減免なりされて学校給食程度の食事ができるくらいに補助してくれるならすぐにでも休みたい気持ちはあります。

あるいは営業を止めるかわりに国から店に食材が送り込まれてきて、地域の住民の食生活の補償として毎日弁当を作れといわれたらヒマも解消されるしむしろやりたいくらいです。現実的な話では到底ありえないのでしょうが、儲けを乗せなくていいのだから、金券で営利を含んだ消費を無理にふやすよりいろいろ残る気がします。

 

【記憶に残ったお店の味 その7】

東京で仕事をしていた頃、新宿三丁目のエリアがとても好きでした。隙間なくいろんなジャンルのおもしろそうな飲食店が詰まっていて、歩くだけでも楽しい場所です。きょろきょろ歩いているうちに毎回東西南北を見失うほどでした。

仕事柄、中価格帯の居酒屋やバル、ビストロなどは視察という目的で数多く訪問する機会がありましたが、良い店はたくさんあるもののなかなか一軒気に入ったところに通うということはないものです。良い店であることと、お客さんの行動範囲にあるかないかというのは大変難しいバランスだというのはこのとき思い知りました。

 

このエリアにある「バクライ」という店は、出かけているときにまだ結婚前の妻が偶然みつけた店でした。テーブル3,4組とカウンター数席で埋まるくらいのお店です。とても居心地と料理が好きなお店で、一度訪問してからハマり、3,4人集まれるときは忘年会や送別会やに年に数回使わせてもらっていました。

 

店内には黒板のお品書きもあるのですが、手書きのメニューが壁一面を埋め尽くしています。A4サイズの白いコピー用紙に3色くらいのポスターカラー的なもので書かれたもので、横長に書いたメニューが縦に5,6枚と連なるように掲示されています。この手書きのお品書きがまた期待をそそるものでした。

料理は伊仏西の洋食ベースで、フォアグラムースとトリュフのカナッペ、ブルーチーズとロメインレタスのサラダや、ニョッキとスパムのグラタン、豚の赤ワイン煮込み+煮玉子など、とにかく酒がほしくなりそうなメニューが並んでいます。ボリューム感のある無骨な盛り付けながら押し出しが強すぎない味付けで、ひたすらワインをお供に食べ続けたくなる料理の数々でした。

 

ご夫婦のようにも見える、女性の給仕の方とマスターが二人で切り盛りされています。原木のハモンセラーノをカウンターに置き、無口そうなマスターはひたすら料理を仕上げていきます。ある時、4人くらいで腰を据えてワインを何本か開けていた時のこと。つまみがなくなりかけたころに、給仕の女性がこれどうぞとスライスしたハモンセラーノを出してくれました。注文していなかったのでおどろいてカウンターを見ると、マスターがギョロリとした目でこちらをみて、かすかに微笑むような感じでどうぞと手を差し出してくれたのです。なんと渋い…と心を打たれ、おかげで飲み会を気持ちよく締めくくれたことを覚えています。