炊い処ぽんたんのブログ

大阪・肥後橋にある「酒と料理と土鍋ごはん」炊い処ぽんたんの近況と食にまつわる雑記です

思い込みの境界線

f:id:tomofumi1981:20221020232314j:image

【近況】

今年はおでんの「大根」にまつわる視点が変わった年でした。

まだ残暑がつづくあたりに今年も始めたおでんは、ようやく注文されない日はないほどの季節となりました。

おでんの人気メニューといえば「大根」で、いちおうその仕込み方には自分なりのこだわりを持って長年やってきたのですが、今年はその方向性を変えることになった自分的にはかなり変化の年です。

 

大根といえば、崩れない程度の絶妙な固さに煮えていて、だしが中までしっかり染みた仕上がりであるほど評判がよく、自分もそれが至上と思いこれまで仕込んできたものです。

 

具体的なやり方としては、好みの大きさに輪切りした大根の皮を厚めに切り、十字に隠し包丁を入れて下茹でし、串がスッと通ったら火から外して水に1時間〜さらして、そこからおでんのだしに入れて弱火でゆっくり煮ていくという流れです。

下茹でして柔らかくし、さらに水で長時間さらすことで、大根の強い風味が抜けてだしの味が染みやすくなるという仕組みです。

 

今年はおでんを始めるにあたって、とあるラーメン屋に行きました。地元の方がおでん目当てで足を運ぶという、住宅街の古くからあるチェーン系列のラーメン屋さんです。

高齢のご夫婦が長年立っておられる店のようで、ラーメンに加えておでんをメニューに入れているのが特徴的なのですが、そのおでんを地元の人は鍋を持って買いに来るというのです。

 

その日は長引く雨で蒸し暑かったのですが、せっかく来たのでビールとラーメン、おでんを数品注文しました。

 

始めにおどろいたのは「とうふ」で、焼き豆腐や木綿豆腐ではなく柔らかい絹ごし豆腐をそのまま炊いたおでんでした。

そんな柔らかいものを店でやろうとすると崩れてしまってロスしてしまいそうなと考えるものですが、絹ごしでないと味わえないふんわり滑らかな舌触りはそれだけで価値を感じるものでした。

 

そして大根です。見た目はきわめて普通の仕上がりです。箸を入れるとやや硬めの感触で5ミリほどだしの色は付いているものの中はまだ白いまま。下茹でも、その後煮る時間も、ぜんぜん足りてないなと思ってしまいました。

とりあえず小さく崩して口に運んでみて驚きました。だしの旨みに加えて、濃厚な大根の風味が心地よく広がっていくからです。

 

おでんの大根にこんな味わいのおいしさがあったのだと初めて気づいた瞬間でした。今まで、おでんにとって大根の強い辛みや匂いは絶対に邪魔なものだと決めつけてやってきて、こういった大根本来のおいしさを見いだすことを怠っていたと反省しました。