炊い処ぽんたんのブログ

大阪・肥後橋にある「酒と料理と土鍋ごはん」炊い処ぽんたんの近況と食にまつわる雑記です

引きようのない後ろ髪

【近況】

先週半ばからは昼も夜も弁当テイクアウトのみの営業、夜はお取り置きの問い合わせがなければ早めに閉店させてもらうことにしました。

周辺のお店が休業していったことで皮肉にもランチの集客は微妙に伸びてきました。しかしこれといって良い感染防止対策もまだ考えつかず、あまり賑やかしいのも考えものということで苦い思いもありつつ決めた次第です。

したがって、まだ日没で暗くなる前の時間に帰宅することが増えています。そんな時間に家に帰るなど学生のころ以来だと気づきました。同時に、暗くなる前の時間に家に帰るというのが、昔あんまり好きではなかったことを思い出しました。

 

大学時代は、思うように予定をたてて過ごせるのが楽しい頃で、出かけたり遊びに行く予定をまず立て、空いた日には必ずバイトを入れ、テスト前なら学校なりどこかで勉強してから、毎日ほぼほぼ終電間際で帰るというふうに、目一杯自分が納得できるように予定を詰め込むことにこだわっていました。

なので、暗くなる前の時間に家に帰るというのは、立てたはずの予定が流れた、予定が入ると思って空けていたら何も入らなかった、というさみしい日だったことを意味します。

 

大学は県外に通っていて、バイト先も大阪だったので、近鉄電車で大阪から奈良方面に向かうのがいつもの帰り道です。生駒山に向かって勾配のある線路を通るので、途中で大阪の街が車窓から一望できます。

天気が良いとなんとも美しい夕日が広がって絶景です。しかしこの夕日が、そんな日の自分にはもの悲しく映るのでした。

何となく中身の薄い一日にしてしまったなあというような悔しさとか、いろんな自分への焦りや物足りなさとかが、引き立てられたのだと思います。

 

今同じ時間に同じ帰り道を通っても、当時と違って感傷におそわれることはありません。いまや立ちはだかるのはぼんやりとした不安ではなく、やるべきことがはっきりと迫ってくる具体的で現実的な問題です。

当時と違うのは、不安や若さを差し出して経験を得てきたというところかもしれません。まだまだ泥臭くもがく日々の繰り返しになるとは思いますが、地道に答えを出し続けたいと思います。

 

【最寄りのグルメ その4】

今回は「納豆」です。

納豆は5歳くらいまでは好きで食べていたらしいのですが、いつのまにか匂いが気になるようになったのか苦手になり、以来30年にわたって避けてきた食べ物です。

チーズとかもそうですが、他人が食べていると気になる匂いも自分が食べれば気にならないものです。そもそも味はともかくとして匂いが気になっていただけなので、なんとなく健康を意識した少し前から食べ始めるようになりました。

そうなると、これまで全く視界に入れてこなかったスーパーの納豆売り場がとたんにバラエティ豊かな楽しい場所に見えてきて、週に2、3種類ほど食べ比べるようになってしまいました。

 

最初はどれも一緒のように感じていた納豆ごとの違いも徐々に感じとれるようになってきました。直近のお気に入りは、京都の「牛若納豆」というブランドです。納豆ならではの特徴(匂い、渋み、甘み、豆の食感など)がちょうど良く合わさっているように感じます。

豆の甘みを楽しむならもっと大粒のものや有機大豆のほうが良いようですし、逆に食べやすさを求めるならひきわりが良いように感じます。匂いの特徴もまたそれぞれで、納豆の好みを決めるのはお酒の好みを決めるのに近いのかもしれません。もしかすると季節によっても感じ方が変わるんではないかと楽しみにしています。

 

母が納豆でお馴染みの茨城県水戸の出身だったので、欠かさず毎日納豆を食べていました。かつて母の故郷から納豆が送られてきていたのですが、その中に「そぼろ納豆」という加工食品がありました。

これは納豆にさらに大根の漬物を混ぜてさらに発酵させて作るものだったらしく、その匂いは納豆の比ではない強烈なものでした。父も納豆が嫌いだったので、母は全員が仕事なり学校へ出かけた後にそれを一人で食べていました。

 

春や夏に学校が長い休みに入るとその匂いが母の部屋から流れてきて辛い思いをしたものです。思えば、その匂いの記憶が強すぎて、納豆をながらく敬遠していたのかもしれません。

 

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いつもの味がいつもない日々

【近況】

二十代後半ころに、十二指腸潰瘍と診断されて10日間入院したことがありました。

これといった深刻な自覚症状がないものの、体内では軽い出血が続いていたため止血と経過観察のために2回ほど胃カメラを飲まなくてはいけませんでした。そのため入院中の半分は点滴のみ絶飲食という状態です。

人生ではじめての絶食でしたが、点滴もつけているのと一日中ベッドに寝転がっているだけなので喉のかわきもなく、案外空腹感は耐えられるものでした。

 

しかし「食べたいものが自由に食べられない」というストレスは日に日に募っていきます。そんなある夜、睡眠中に夢を見ました。

当時の勤務先にいた料理人の先輩が出てきて、「素うどん」を振る舞ってくれる夢でした。

透き通った関西風の薄色のつゆはしっかりと出汁が利いていて、麺は最高の茹で加減。夢の中で一口一口味わいながら食べました。夢なので当然味はないはずなのですが、うっとりとした気分でそのうどんを平らげていたと思います。

ある意味では、このとき夢で食べたうどんを超えるうどんに人生で出会ったことはないかもしれません。

 

この1週間で、自粛要請にしたがう形で営業時間を変更しました。周辺飲食店の休業があいついだためか、ランチの人出がやや戻りつつあります。売り上げとしてはありがたいですが、感染拡大が止まらない現状ではそれもまた大いに問題がありますので、つぎはテイクアウトのみの営業や不定休での営業を検討しています。

それにしても、外食にかぎっては「食べたいものが自由に食べられない」毎日になってしまいました。

しかし今こそそのストレスを溜めに溜め込んでおけば、いずれ来たるその時に「居酒屋に来てジョッキで生ビールなんていつぶりだろう」と思いながら飲む一杯めがうっとりするような味わいになるはずだと思っています。

 

【おすすめレシピ本 その4】

「イタリア料理の本/米沢亜衣」 アノニマ・スタジオ

レシピ一つ一つに、その料理にまつわるイタリア生活のエピソードが添えられています。季節ごと土地ごとに長い年月繰り返し作られ続けているような、とてもシンプルなレシピがほとんどでしょうか。

なかでも「トラーパニ風パスタ」は、味の想像がつかないレシピから、何度でも食べたくなるような味ができあがって嬉しかったことを覚えています。初めて食べるのに懐かしさのあるおいしさでした。

 

イタリア料理やフランス料理のレシピに取り組もうとして不安になるのは、当たり前ですが「醤油」と「だし」がなく、味付けの基本が「塩」によって決まるという点です。

正確には、西洋料理にも野菜や肉・魚からとるだしや炒めた野菜で旨みを出す方法がありますし、醤油はなくてもアンチョビや魚醤などはあります。しかし使い慣れた醤油やだしに比べれば、どれくらい使えばどの程度の味がつくか想像が付かないので不安になるし、いつ完成したのかわからないのが正直なところです。

 

というわけで、イタリアンやフレンチはやはり専門の人が作る店に行くのが1番だと思っています。

ネットを探せば市販のコンソメやブイヨンで無難に仕上げるレシピがたくさんありますが、やはり塩加減のみでばっちりおいしさを感じる料理を味わうと目が覚める思いがします。現地においては日常の料理が、日本では非日常の味として楽しめるのは不思議な気がします。

 

店に立っていると、日常と非日常という感覚のバランスの迷いから抜けられないことが多々あります。

競合する多くの飲食店から目立つには、非日常的なワクワク感や珍しさのある見た目や演出が必要です。飽きることなく繰り返し通ってもらうためには日常的な味、肩肘張らずに立ち寄れるメニューや価格帯である必要があります。

これこそが答えだというものはないのでしょうが、常に迷いながら手抜きのない落とし所を見つけていこうとは思っています。

 

 

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鳥頭、三歩めの正直

【近況】

独立して店を始めることを意識しはじめたころ、多くの人の口に入る誰もが好きなメニューは時間をかけて良いレシピを考えるべきだろうと思い、会社の仕事が終わった後の時間を使って半年くらいかけて「唐揚げ」のレシピを作りました。

 

当店のレシピは基本的に、本として既に出版されるなどして出回っているレシピを手本に取って仕上げています。しかしこの唐揚げのレシピは例外で、特に手本を探さないで作ったものです。それまでの知識の中で肉の味付けに使う手法や、相性がよさそうな食材やスパイスの組み合わせを何パターンも試し、たどり着いたレシピです。

元々、鶏の唐揚げは好物でいろんなところで食べますが、まだうちと似たような味を出しているものに出会ったことがありません。狙いは当たったのか、そもそも唐揚げが好きな人が世の中に多いからなのか、ランチをやり始めたころは唐揚げのよい評判を耳にすることは多く、店頭に短い行列ができる時もしばしばありました。

自己満足の部分も多分にふくむでしょうが、このことは自信の一つになった出来事でした。

 

今、店の周りは今も日を追うごとに人が少なくなってきています。ほかのオーナーさんと、お互い受け止めきれない表情で話し込むことが増えました。隣接する周辺の店は徐々に自主休業に踏み切っています。

緊急事態が宣言通りの期間に終わるかどうかがわかる術もなく、当店もどのタイミングで休業を判断するか全く見えない状況です。

 

スピード感をもってこの事態を切り抜ける案を練る必要を毎日毎時間感じます。頭ではわかっていても、つい目先のことばかりを考えてしまい短絡的に行動してしまう毎日です。いまを2回目の創業と考えて、唐揚げのレシピを作り込んだときの気持ちで、長く先を見据えた計画を立てていきたいと思います。

 

【ぽんたんのレシピ紹介 その9】

件の鶏唐揚げとは別ものではありますが、簡単で失敗しない「鶏の竜田揚げ」のレシピです。

 

このレシピは鶏肉がおいしくなるのももちろんなのですが、「醤油がおいしい」料理だとも思っています。ふだん食べ慣れた醤油に、こんな香り、甘み、旨みがあったのかと驚きました。ぜひ試していただきたく思います。

 

分量

鶏モモ肉 1枚

薄口醤油 150cc

酒 15cc =大さじ1

おろししょうが 小さじ2〜お好みで

 

片栗粉 150g

薄力粉 100g

 

①鶏モモ肉は15-30g程度の食べやすい大きさに切り分ける。厚みのあるところには切り込みを入れておくと火の通りが良い

②薄口醤油、酒、おろししょうがをボウルに混ぜておき、鶏肉を入れて揉み込む。10分つけ込んだらザルで汁気を切っておく

③別のボウルに片栗粉と薄力粉を混ぜておき、汁気を切った鶏肉に粉をまぶす。しっかり粉をはたき、バット等に並べて10分以上休ませる

④揚げ油を160°cに熱し、鶏肉を3分間揚げて一旦取り出す

⑤揚げ油を180°Cに熱し、キツネ色になるまで二度揚げする

 

・揚げ油は深めのフライパンや揚げ物鍋で、できれば1リットル近くたっぷりめに用意し、少量ずつ揚げると失敗しにくいと思います。温度が下がらないよう、鶏肉を入れる量を油の液面の3分の1までに抑えることがポイントです

 

・浅目のフライパンに1センチ程度の油で揚げ焼きにしてもかまいません。その場合も一度にフライパン一杯に鶏肉を入れないで、少しずつ。

油が少ないときは火の通し方がむずかしくなります。指で押して火の通りをみるのが良く、グニュっとした感触がしっかりした弾力になればOK

 

自由と自粛の不自由な関係

【近況】

いつもより早く片付いてさあ帰ろうというときに、これまでだと一人で軽く飲んで帰ろうかみたいな気持ちもありましたが、いよいよそういう気持ちにもならなくなってきました。

自分自身がそんな心境なのにお客さんにはうちの店には来てくださいというのも変な話なので、この一週間はテイクアウトメニューの準備や、短い滞在時間で食事してもらうことの打ち出しについて考える日々でした。周囲の状況によっては営業そのものが立ち行かなくなる可能性もあるとはいえ、もじもじした感情のままじっとするのも辛いので頭だけでも動かしています。

 

毎日いろいろなアイデアが頭に浮かんでは消えていき、一度あきらめたアイデアがまた浮上したりと客足とは反対に頭の中はせわしないものです。2年前に店を始める準備をしていたころを思い出しました。

毎日、オープン日を待つ我が店のメニューや店内をどうするかということをずっと考えていたときが、ちょうどこんな感じでした。一週間のあいだにコロコロとめざす方向性が変わっていきます。不安だけでなく期待にも頭が揉まれています。

 

個人事業主としての今の立場で受けられる臨時の融資や支援の手段についても色々調べました。いざというときに頼れるものがあると心の隅に留めておけるのはこの先を考えるうえでも大事なことだと痛感しました。

 

あとは徳利に日本酒を入れたりボトルワインをテイクアウト料理と一緒に販売できたりするとさらにありがたいのですが、許認可の関係でお酒のテイクアウト販売はできません。

緊急事態を乗り越えて収束にむかうことになっても、厳しい時期は長らく続くと思われます。期間限定で酒類販売の許可を飲食店が取得しやすくしてもらえるとよりありがたいし、お客さんにも新しい楽しみ方が増えていいと思います。

 

【🍅外食できなくても、食べる楽しみを🍱】 毎日のごはん作りを手伝います!... - 炊い処 ぽんたん(たいとこ ぽんたん) | Facebook

 

外食する機会が減った人が多いと思い、↑このような発信をしてみました。

作って食べてもらう機会が減ったままではつまらないので、なにか食事を楽しむための手助けになればと思った次第です。

 

些細なことでもなんでもかまいませんので、料理のこと、お店のこと、気になることは何でも聞いてください。

 

【何でもない話 その1】

この仕事をしているとお客さんから「マスター」と呼びかけられることがしばしばあります。

今はもうずいぶん慣れましたが、会社員だったころは「マスター」という単語と縁がなかったですし自分自身も誰かのことをマスターと呼ぶことなどなかったので、最初は「いや、きょうびマスターて!」と思ったものです。

死語に近いと思ってましたが全然今も使われる言葉だと実感しました。だいたい40代〜50代以上のお客さんに多く見られます。

 

また仕入れに行くと店の方から「大将」と呼びかけられることもあります。かなり自然な距離感で使われるのですが、これもなかなか馴染みのない呼ばれ方です。どうもお寿司と縁の深い魚系の商売の方はお客さんを「大将」と呼ぶことが多いようです。

 

近所にある飲食店の、御歳70を数える男性オーナーさんが時折ランチを食べに来てくださいます(この方にもマスターと呼ばれています)。

一度外でその方を見かけたので声をかけようとして、ふと何と声をかけたものかと一瞬迷ったのちとっさに「ご主人!」と呼びかけたのでした。

なかなか他人をご主人と呼び止めることはないというか人生で初めてのことで、どうしてとっさに思いついたのがそれだったものかなど変な恥ずかしさに包まれたことをくっきり覚えています。

 

言葉や環境の力は人柄をゆっくり変える力があると信じているところがあります。純喫茶のマスターも始めからマスターだったわけではなく、周りからマスターと呼ばれながらお店に立っているうちに徐々に口ひげを蓄えたりオールバックにするなどしてマスターらしい風貌になったのではないでしょうか。

ちなみに車・バイク関係の仕事を生業にしている我が弟は、20代の一時期パンチパーマでした。

酔ってもないのに迷い道

【近況】

なんとか売上を補強できる取り組みはないかといろんなアイデアを同時並行で毎日かんがえる1週間でした。こういう今までに滅多にない状況ですので、チマチマしたアイデアより何か思い切ったアイデアはないかというところから始まって、実現可能な案に落としていくほうが良い取り組みにできそうな気がします。そのほうが考えている間のテンションも保てそうなものです。

 

各国で都市封鎖や外出禁止の流れがある中、日本のやり方はゆるい、危機感がないといった批判を目にすることも多くあります。思うこととしてはただなんとなくですが、少しずつ気づかない程度に空気の色が変わっていったほうが、混乱すくなく皆足並みをそろえて行動に移すように思いますし、なるべく多くを損なわず残すという点でこの国に合った変化の仕方のようにも思います。もしこの後に店舗系事業は営業停止、外出も禁止という流れが待っていても、まあそりゃそうかという気分に自分はなってきています。

 

個人的には、自分も感染を増やす側になりたいわけではありませんから、1日あたりの家賃と水光熱費年金保険料税関係が延納なり減免なりされて学校給食程度の食事ができるくらいに補助してくれるならすぐにでも休みたい気持ちはあります。

あるいは営業を止めるかわりに国から店に食材が送り込まれてきて、地域の住民の食生活の補償として毎日弁当を作れといわれたらヒマも解消されるしむしろやりたいくらいです。現実的な話では到底ありえないのでしょうが、儲けを乗せなくていいのだから、金券で営利を含んだ消費を無理にふやすよりいろいろ残る気がします。

 

【記憶に残ったお店の味 その7】

東京で仕事をしていた頃、新宿三丁目のエリアがとても好きでした。隙間なくいろんなジャンルのおもしろそうな飲食店が詰まっていて、歩くだけでも楽しい場所です。きょろきょろ歩いているうちに毎回東西南北を見失うほどでした。

仕事柄、中価格帯の居酒屋やバル、ビストロなどは視察という目的で数多く訪問する機会がありましたが、良い店はたくさんあるもののなかなか一軒気に入ったところに通うということはないものです。良い店であることと、お客さんの行動範囲にあるかないかというのは大変難しいバランスだというのはこのとき思い知りました。

 

このエリアにある「バクライ」という店は、出かけているときにまだ結婚前の妻が偶然みつけた店でした。テーブル3,4組とカウンター数席で埋まるくらいのお店です。とても居心地と料理が好きなお店で、一度訪問してからハマり、3,4人集まれるときは忘年会や送別会やに年に数回使わせてもらっていました。

 

店内には黒板のお品書きもあるのですが、手書きのメニューが壁一面を埋め尽くしています。A4サイズの白いコピー用紙に3色くらいのポスターカラー的なもので書かれたもので、横長に書いたメニューが縦に5,6枚と連なるように掲示されています。この手書きのお品書きがまた期待をそそるものでした。

料理は伊仏西の洋食ベースで、フォアグラムースとトリュフのカナッペ、ブルーチーズとロメインレタスのサラダや、ニョッキとスパムのグラタン、豚の赤ワイン煮込み+煮玉子など、とにかく酒がほしくなりそうなメニューが並んでいます。ボリューム感のある無骨な盛り付けながら押し出しが強すぎない味付けで、ひたすらワインをお供に食べ続けたくなる料理の数々でした。

 

ご夫婦のようにも見える、女性の給仕の方とマスターが二人で切り盛りされています。原木のハモンセラーノをカウンターに置き、無口そうなマスターはひたすら料理を仕上げていきます。ある時、4人くらいで腰を据えてワインを何本か開けていた時のこと。つまみがなくなりかけたころに、給仕の女性がこれどうぞとスライスしたハモンセラーノを出してくれました。注文していなかったのでおどろいてカウンターを見ると、マスターがギョロリとした目でこちらをみて、かすかに微笑むような感じでどうぞと手を差し出してくれたのです。なんと渋い…と心を打たれ、おかげで飲み会を気持ちよく締めくくれたことを覚えています。

季節に押されて頭絞り

【近況】

人の流れが落ち着いていることをいいことに、メニューのリニューアルなど積極的にやっています。この1週間は「おでん」を新しくしました。

去年初めておでんの提供を開始しましたが、11月くらいともなるとほぼ全ての席で注文がはいるほどで、冬におけるおでんの力を身をもって知りました。

とはいえ、いよいよ寒さにも慣れてきた1月ごろ、そして暖かい日もちらほら出てきたこの2週間くらいはおでんの人気も本格的に落ちてきて、いよいよやめ時かなと考えていました。

その頃同時に、今までメニューに入れていた肉料理について、満足度と注文頻度のバランスから見直しを図りたいと考えていました。

 

そんな折にふと、イタリア家庭料理でいろんな種類の肉と野菜を煮込んで食べる物があったことを思い出しました。鶏・豚・牛を一つの鍋に煮込むのはなんとなく邪道な気がしていたのですが、いざ調べてみて作ってみるとこれが実においしい。じゃあおでんに置き換えてみたらいいんじゃないかということで「肉おでん」にリニューアルすることにしました。

 

塊の赤身肉やバラ肉、牛すじ、手羽先などを炊いておでんにしています。ベースはいままでどおり真昆布と削り節の出汁ですが、野菜と肉のコクや旨みが加わって力強い味になっています。その出汁で大根やじゃがいも、玉子や豆腐なども炊いています。季節の野菜なんかもおでん種として入れていくつもりです。

なんとなく、冬が過ぎても食べてもらえそうな、当店のメニューらしい仕上がりにできそうな気がしています。

 

とはいえあと2、3ヶ月もしたら今度は本格的に暑くなってくる季節です。去年も苦戦しましたが、このままではさすがに難しいような気もしています。土鍋ごはんと肉おでんでは、夏に見たら字面だけで汗が吹き出そうです。今年こそ夏でも振り向いてもらえそうなアイデアを今のうちに貯めていこうと思います。

 

【ぽんたんのレシピ紹介 その8】

今回はたぶんご家庭でも簡単にできる、「フルーツシャーベット」です。

かれこれ1年半くらい、いろんな果物で手作りシャーベットを試してきました。その中でも特に「実物よりも本物らしい味」と評判だったのが、「キウイのシャーベット」です。材料はシンプルです。

 

・キウイ 2玉

・水 100CC

・グラニュー糖 70グラム

 

 

①鍋にグラニュー糖と水を入れて火にかける。一煮立ちさせてよくかき混ぜ。グラニュー糖がとけたら冷ます

②キウイは皮をむいてすり下ろす。ジューサーやフードプロセッサーがあれば粉砕してジュース状にしてもよい

③①と②を混ぜてバット等に薄く流し、冷凍庫に入れる

④15分ごとを目安に冷凍庫から取り出してフォーク等で空気を含ませるように全体をかき混ぜる

⑤シャーベット状に固まるまで④を繰り返す

 

グレープフルーツやブンタンなどの柑橘類でもおなじ方法でシャーベットが作れます。その際は、絞り汁に果肉も加え、果皮を少し(白い部分は苦みが強いので避ける)すり下ろして加えるとおいしく仕上がります。

 

市販のシャーベットのような空気を含んだ口溶けというわけにはいきませんが、加熱していない果汁を使っているぶん生き生きとしたフルーツの香りが感じられます。また、ほろ苦さと甘さが引き立て合う味わいは、生の果物ならではのものだと実感できると思います。

らしくない3月

【近況】

毎日かわらず不安定なニュースが流れる中、なじみのお客さまに助けられた1週間となりました。去年のように送別会の予約で賑わってというわけにはいきませんが、去年はまだ今ほど顔なじみの方がいませんでしたから、もしこの騒ぎが去年の出来事だったらと思うとぞっとします。

 

自ら望んで自営業に就いた以上は会社員でいた頃よりもいろんな外的要因が生活に大きく影響することは仕方ありません。きょう現在もはっきりと先が見えないもどかしさや不安は大きいですが、そう思えば思うほど、自分の思い描いたタイミングで独立ができてよかったと感じます。

 

受け持っていた仕事のこと、年齢や家族のことなど様々な要因を考えてこのタイミングだと決めたのが3年ほど前でした。

もともと、どんな店がやりたいとか事業規模とか始めてからどんな展開がしたいかなどは、何も一切決めていませんでした。ただ、後々になって「本当は自分の店をやりたかったけどやれなかった」という後悔だけは避けたいという気持ちは強くありました。

決めたその日が来るまでは期限も具体的な目標もぜんぶ曖昧な、ふわふわとしたイメージしかなかったのに、初めてくっきりと進む方向が見えた不思議な感覚でした。

 

もしその直後に今年の新型ウイルスのような騒ぎが起こっていたら、怯んで先延ばしにしてしまったと思います。そうなれば、次のタイミングを決めるのにまた時間を要し、独立開業すること自体あきらめてしまっていたかもしれません。いろいろと運が良かったから今に至ることができたのだと思います。

 

朝、仕入れに向かうともうとっくに春の食材が並んでいますが、買い手が少なくなったせいか良いものが去年より安く売られているケースもちらほらあります。富山湾内産のホタルイカ(他県に運ばれて加工されたものとは大きさが違います)は去年の半額くらいで並んでいます。

食べる楽しみという意味では今年は例年にないチャンスがありますので、そういうところでどんどん気を晴らしていきたいと思います。

 

【最寄りのグルメ その3】

最近はレトルトのパスタソース、特にミートソース系を各社食べ比べています。

今のところのお気に入りは、スーパーマーケットの「ライフ」が展開しているライフプレミアムというPBのボロネーゼです。

香味野菜とハーブの香りが良い意味での渋みとして際立っていて、酸味と甘味のバランスも好みの印象でした。

ミートソースは人それぞれイメージする味の差が大きいように思います。トマト味の主張が強かったり、ケチャップのような甘みが強かったり、香りが単調だったり、肉の量が物足りなかったりと、食べ比べるといろいろ思うところがありました。

ライフのボロネーゼは他メーカーが展開する高級ラインのパスタソースよりさらに100円くらい高いですが、手作り感が感じられて満足でした。

 

面白かったのは、キユーピーの「あえるパスタソース ミートソースフォンドヴォー仕立て」でした。

これはソース自体の量が少なく、湯せんせずに茹で上げたパスタにそのままからめるだけのソースです。

手軽さからは想像もつかないしっかりとした味の要素が感じられます。この少ない量のソースで何でこんなに味がするんだろう?とおどろきました。

かつてはキユーピーの業務用製品もたくさん味見する機会がありましたが、同社の製品は使い手がイメージする味の要素をしっかり詰め込んでいて、物足りなさを感じることがないという印象がありました。

しかも、どの製品もちょこっとお洒落な香りやクセのアクセントが利いていて、いったい味作りのためにどんな研究をしているんだろうと毎回思います。

ただ、その味だけで完成度が高すぎるためか2、3度食べると飽きてしまうイメージです。

 

その昔、家にニンジンが余っていて使い切りたく、でもトマトの缶詰がなかったときにニンジンだらけのミートソースを作りました。

明らかに多いニンジン、玉ねぎ、にんにくをそれぞれ粗めのみじん切りにし、水とワインとひき肉に塩こしょうだけで作ったのですが、長い時間煮込んでいたらニンジン臭が急に消え、上品な甘みがぐっと押し出されたおいしいミートソースになった記憶があります。

 

レシピ通りに作った味も当然大切にしていますが、こういった「必要に迫られてたどり着いた味」との出会いが自分は好きで、店でメニューを考えるときも意識していたりします。